妄想サンバ

助走をつけた妄想がやがて暴走していく文章になる

イントロ

書いている小説のイントロです。 
 

 タバコを吸っていた。夏の蒸し暑い日だった。朝から頭の悪そうなアナウンサーが、女のくせに、社会問題について一丁前に意見を語っていた。ただのニュース原稿読み上げ機が。顔がいいからといって調子に乗るなあばずれ公共電波の売女が。
 卓袱台の上の小型テレビの電源を切り、窓から身を乗り出して、向かいの家の庭に寝転がる猫を眺めている。
 猫の方をじっと見ていると、しばらくしておれの視線に気が付いたのか、猫がおれの方を見た。だがすぐに視線を他所に移して二度とおれの顔を見ることはなかった。無愛想な猫だ。
 おれが話しかけてやっても何にもないように無視をする。次第におれも意固地になってきていつの間にか大声を出して猫を罵り始めた。
「おい、クソ猫」
「返事をしろ」
「ボケが」
「デブ猫」
「不細工な顔をこっちに見せてみろ」
 我ながらよくここまで恥じらいなく貧相な言葉で罵倒を繰り返せるなと感心する。しかし猫とおれの感性は違うのか、彼奴はおれを見ようとしない。おれはそれにもっと激しく腹が立って大声で怒鳴り続けていたら、その家の家主の耳の遠い婆が猫の代わりにおれを睨みつけてきた。
 おれの人生は、大体いつもこの通りだ。