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妄想・助走・暴走

助走をつけた妄想がやがて暴走していく文章になる

恐怖!戦慄の共依存〜それでも母は父が好き〜

 特に忙しい生活を送っているわけでもなく単純に書くモチベーションが湧かなかったためにブログの更新を一ヶ月近く放置していた。TwitterのBioにこのブログのURLを掲載しているのに一月も更新されていないというのはちょっと誠実ではないと感じたので更新する。
 だが、これといって書くものはないのでいつもの通り近況報告。
 前回の記事で触れたように祖母の家で居候生活を続けている。最初はここまで長引くとは思っていなかったが、今月末で三ヶ月目に突入する。
 祖母の家に長居しているのは単純に居心地がいいからで、その理由を考えてみると今までおれの生活に介入してきた両親の存在がないからだろう。祖母の家での自分は自然体の自分でいられているような気がする。今のところは祖母との関係も極めて良好だ。早朝、一緒に散歩をしたりしている。
 さて、父との喧嘩が原因で出て行ったということは母との関係は悪くはなく、度々父がいないタイミングを見計らって自宅に帰っている。まあ主にWiFiがあるから見たい動画を見るために帰っている訳だけれども。
 先日も家に帰ったところ、ちょうど母が居間でタバコを吸っていた。「ただいま」と言いながら、ちょっと違和感を覚えている自分に当惑していると、母がいきなり「お父さんのことなんだけど」と話を切り出してきた。
「お父さん、出て行くって」
「は?」
「出て行くから、この家で私とあんたの二人で暮らせってさ」
「はあ?」
「家賃はこれまで通り払ってくれるみたい」
「???????????」
 全く状況が掴めないまま話はどんどん加速していく。
「でもね、お父さんがこの家の家賃払えるとは思えないし、払ってくれるとは思えない」
 それは同感だ。親父が約束を守っているところをおれは見たことがない。
「じゃあどうすんの?」
「この家引き払おうと思って」
「??????????」
「引き払って、お母さんは叔母さんところで居候するから、あんたもしばらくおばあちゃんのところで生活して」
 現実的に考えたらそういう結論になるのかな。ちょっと冷静になって考えてみると、この話は喜ぶべき話じゃないのか。おれを悩ませてた元凶が一気に消え去ってくれることとなった。
「うん。いいんじゃない。賛成です」
「ああそ、それでねえ、お母さんも親戚とか知り合いに借金抱えてて、それを返さないといけないから、二人で暮らせんの、二年後くらいになっちゃうねえ」
 ……あの、二年後のオレ、さすがに働いているなり大学行ってるなりしてると思うんスけど?
 そのことを母に言ったら、え、あんた大学行く気あるのって言われた。学費は全部奨学金で払え・一人暮らしはさせない(しても仕送りは送らない)・大学生になったらバイトして生活費稼げの三重苦でおれを縛りつけて、大学生になる気を消したのはどこのどいつだよ。
「いいよ、二年後はさすがに一人暮らししてると思うし」
「あんた、家族のこと嫌いなの?」
「嫌いじゃなかったら家出しねえだろ」
「確かに」
 という訳で(どういう訳だよ)その日は久しぶりに実家で寝ることになった。父が朝方仕事から帰ってくる時に、母一人だと家にあげてしまって危険なので、おれが門番として立ちふさがることになった訳だ。
 息子が恋しかったのか、一つの布団で一緒に寝ようと言ってきた母を猛烈に拒絶して、眠りに就こうと思った……が、全然眠れなかったので動画見るなりアニメ見るなりで暇を潰していた。
 すると、朝の4時半に父が案の定帰ってきた(帰ってこないって言って出て行った人です)。自宅の外のいつも家族以外の人間から見えない場所に鍵を隠してあるので家の人間は鍵を持ち歩かない。だが、今回はその隠してある鍵を家の中に持ち込んで鍵をかけているため、外の人間は絶対に家に入ることができない。これでは十分ではないとおれはチェーンまでかけた。
 家の中に虚しく鳴り響くインターホン。ガチャ、ガチャガチャガチャ、ピンポーン、ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンガチャガチャガチャ。
 お前、家に帰ってこないんじゃなかったのかよ。
 その次に父は母の携帯に電話をかけた。なるほど、母を説得してあげてもらおうってわけね。繰り返して済みませんが、「俺は出て行くから二人で住め」って言った人間の行動です。
「もしもし? あんた帰ってこないんじゃないの?」
 いいぞ、母が珍しく強気だ。おれがあっかんべーをドアに向けて決めていたその時……
「……いいよ、分かったよ」
 母は寝室から出てくると、真っ直ぐドアへと向かい開錠しようとした!
「!? 何やってんの!? 意味ないじゃん!?」
「しょーがないじゃん、なんか寮やってないんだって」
「いやいやいやいや、今ここで開けちゃダメだって、本気で怒らないと! そうやってズルズルと死んでいくつもりか!?」
 ここで死に繋がる誇大妄想はいかにも興奮したメンヘラといった具合。
「だって寮やってないんだもん! 今ここで騒がれたら面倒臭いし、意地になったらもっと面倒でしょ!」
「ダメだって、絶対ダメだよ!」
 居間で押し問答する二人。「おーいまだかー」と間抜けに叫ぶ父。
 結局押し切られて母は父を家の中にあげてしまった。呆然として立ち尽くすおれ。軽薄な笑みを浮かべながら、酒が入ったビニール袋を提げている父(これが最後ですが、父は「出て行く」と宣言しています)。
「お? 何やってんだ?」
「何やってんだはこっちのセリフだよ、今すぐ出て行け」
 息子が帰ってきたのか嬉しかったのか、最初おれを見た時はニタニタした口角をさらにぐっと上げていた父も表情が険しくなる。
「何だお前? 朝から」
「出て行くんじゃねえのか」
「ねえ、もういいのよ、やめてよ」
「よくない! 出て行くんじゃないのか? なんでここにいる? なんでごめんごめんなんて言いながら帰ってこれる? なんで平然と嘘がつけるんだよ!」
 しばしの沈黙。
「なあ、お前文句あんなら出て行けよ、お前みたいな息子いらねえよ」
「お前みたいな人間に必要とされる息子じゃなくてよかったよ」
「なんだ? 今誰に向かってお前って言った?」
「お前はお前だろ? それとも本名で言わなきゃ分からねえか?」
「てめえ、殺すぞ」
「ねえ、もうやめてよ」
 半分泣きかけている母親。そもそもの発端はあんたも親父に愛想尽かして親戚の家で一泊したからだろうが。という怒りがこみ上げてくる。
「殺すのか? じゃあ殺してみろよ。おれはいいぜ。ほら、必要ねえ息子を殺してみろ。首締めるか? 包丁で刺すか? 酒瓶で殴ってみるか? ほら、おれは何にもしねえから殺してみろよ」
「ねえ、もうやめてよ」
「てめえ……」
「殺してみろよ? ほら、殺すぞってことは殺す覚悟があるんだろ? ほら、殺してみろ。実の息子のこと殺せる勇気があるなら殺ってみろよ。まだか? まだか?」
「……」
「もういいってば!」
「よくねえよ、殺すぞって言ったんだから殺して貰わねえと。息子のこと出て行けって言っといて、一週間もしねえで帰ってこいなんて言いやがって、次はてめえが出て行くって言って、それで一日で帰ってきやがったよ。おう、せめて殺すって言ったことぐらいは守ってもらわねえと。ほら、殺さねえのか? 殺せよ。殺してみろ! おいチンピラ、殺してみろよ、棒立ちで無抵抗の人間も殺せねえのか? おれが手本見せてやろうか? なあ、なんとか言ったらどうなんだい、それとも殴るか? 殴って手元にあるもの全部投げ散らかして、全部台無しにするか? ずっとそうやってきたもんな、ほら、やってみりゃあいいじゃんかよ。どうした? やれってんだよ」
「もう向こう言ってくれ」
 吐き捨てるように父がそう言うと、母はおれを引っ張って自室に戻った。父と一緒に寝たくはないのか、おれの布団に潜り込んだ母を見て、無常感がふつふつと込み上げてきた。
 結局この母が全部悪いのだ。婚約破棄をしてまで昔の恋人を追わなければ、一度は出て行くと宣言したのに、ストーキングしてきた父を許さなければ、父の虐待に耐えなければ、出て行こうとした意志を挫かなければ、こんなことになっていなかったはずなんだ。
 悔しかった。なんでこんなことになってしまったんだろう。どうしておれはこんなところにいて、こんな惨めな人間を見ているんだろう。耐えられなかった。こんな両親と同じ空気を吸って生きることが苦しかった。親父流の言い方で書くと、こんな両親は必要がなかった。
 着ていたパジャマを脱ぎ捨てて、家まで着てきた服に着替えた。祖母に今から帰るから鍵を開けていてくれと伝えると(実は鍵を持ってくるのを失念していたのだ)、おれは自室を出た。
 居間では父が座布団の上に座りながら缶ビールを飲んでいた。つまみがなんだったかは思い出せない。父は、居間を抜けて再び家から出た息子に何も声をかけなかった。
 10年近くかけて言葉と暴力でじっくりと俺の精神を壊していった父が、殴りもせず、殺しもせず、ぼんやりとテレビ画面を見ていた。抜け殻みたいだった。「てめえ」と言った息子に殴る気力さえ持っていなかった。人を壊れるまで追い詰めた成れの果てがそれかよ。お前が壊した心を俺は一から組み立てようとしてるのに、お前は呆けるだけでいいのか。
 祖母の家につくまでに何度も涙を流し掛けたが、ついぞ頰に雫が垂れることもなく自宅にたどり着いた俺は、もう猛烈でダッシュしてベッドにスライディングして不貞寝した。
 久しぶりに悪夢を見た気がした。