妄想サンバ

助走をつけた妄想がやがて暴走していく文章になる

自律

 タバコの煙が換気扇に吸い込まれていくのを眺めていたら、これはおれの吸ったタバコの煙なのか、それとも親が吸ったタバコの煙なのか、家に染み付いた煙がおれには見えるのか、そんなことは別に考えていなかったし、当面の生活について考えていたとは思うが、おれがタバコを吸っている時は大抵ド鬱なんで、多分、当面の生活など考えられぬほどに人生の辛さに直面していたと思う。
 この人生への辛さが思春期特有のものなら、さっさと消え去ってくれと願いながら時が経つのを待てばいいが、そうでない場合は厄介で、つまりいままで生きてきた全てがおれに跳ね返ってきている訳で、それはおれの枷となるし、これを四字熟語で表すと自縄自縛らへんになると思うが、そんなライトノベルチックな洒落た言い回しは即座にパッと思いつくものではないから、やはりトイレの便座の上のおれは、涙を流しながら、「辛い」とか「疲れた」とか言っていたと思う。
 普段はそうでもないんだが、深夜とかそういう時間帯になると前触れもなくそういう現象がザーッと到来して、当分拭えず、でも寝たら治っていて、そしたら何する訳でもなく怠惰な1日を過ごすという生活なんで、まあおれは現在進行形で自分を縛り上げている訳だ。かといって今更自分を律するといってもそんなことは出来ない。何よりも、親父がいる。親父は普段からおれの不出来を詰っているくせに、おれが自分を律しようとするそぶりを見せると、牽制するかのごとくバカにしてくるし、おれは何よりもそういうバカのされ方が耐え難い性格なので、親父がいる間では、勉強やダイエットなど出来そうもないのが実情だ。
  また、親だ。何かと言えば親を出して言い訳をする自分を情けなく思う。勉強したいなら図書館に行けばいいし、ダイエットがしたいなら親が寝た後にでもやればいい。おれがそれをしないのは、たとえ図書館に行っても本を読んで過ごすかスマホをいじって過ごすかで、親が寝た後でもポテトチップスを食うかだからだ。おれは自分を律することができない。助けてほしい。どうやったら自分を律することが出来るんだろう。少しでも自律が出来たら、おれの生活も好転するはずだ。
 でもおれは知っている、こんなことをこんなところで募ってもおれは実践しない。おれはそんなおれが大嫌いだ。醜い自己顕示欲を膨らませていつかできる、おれはきっとやれると根拠のない自信を抱いたまま、しかし何もしようとしない男だ、おれは。そして、その現状がわかっているのにもかかわらず何をしようともしない人間なんだ。
 ここは地獄だ。助けてほしい、おれはどうすればいい?